『ハリウッドランド』(試写会) [映画・DVD]
1959年6月16日。
TVでスーパーマンを演じ、子供たちのヒーローだった、一人のハリウッド俳優が死亡した。
自殺とされた死ではあったが、それにしては不信な点が多く、いまだに真相は謎、未解決の事件となっている。
このセンセーショナルな事件を、独自の切り口でサスペンスフルに描いた作品。
一発の銃弾で死亡した人気俳優、ジョージ・リーブス(ベン・アフレック)。
検察の結果「自殺」と断定されたが、それを信じない母親が探偵に調査を依頼。
引き受けたのは、ルイス・シモ(エイドリアン・ブロディ)。
やや強引なやり方で調査を進める内に、シモはリーブスの抱えていた悩みを知り、また、彼を殺す動機を持つ婚約者、元恋人の映画会社社長夫人(ダイアン・レイン)、ギャングとかかわりを持つ映画会社社長(ボブ・ホスキンス)の存在を知る。
時間軸が、シモが調査を進める現在、と、リーブスが生きた数年間、とちょこちょこ切り替わるので、頭の切り替えが忙しい。
話は、サスペンスというほどの緊迫感はなく、謎解きほどの面白みも感じられなかった。
「権力者が金の力で真実をもみ消す」なんてことは、どこでもありそうだし、さして新鮮さも感じない。
スーパーマン俳優に特別な思い入れもないから、「この謎を知りたかった!」という興奮もないし。
主人公である探偵シモも、それほど魅力がある人物ではないから、共感とか応援アンテナもいまいち立たない。父親としての側面も描かれるけれど、かえって混乱するというか。
ただ、ベン・アフレックとダイアン・レインの演技は良かった。
ベン・アフレックは、思い通りの役者人生を歩めず、本当はスーパーマンなんかやりたくなかったというリーブスの苦悩を充分に伝えてくれたし、かなり研究して本人そっくりの表情を作ったらしい。
リーブスが自分を利用しているだけと薄々わかっていながら、彼を愛し、多くを与え、裏切られて(?)涙する。ダイアン・レイン、お見事な表情。
愚かともいえるような恋に翻弄される、若い頃はさぞかし美しかったと思われる(それを自分でわかっていて、老いることを嘆いているようにもみえる)中年女の悲哀をよく見せてくれたと思う。愚かしいけれど、品を失わないあたり、今回の役作りは成功しているような。
同じ、若い男にいれあげる、裕福な社長夫人役でも『運命の女』はひどかったからなあ・・・。
本格的なサスペンスは期待せず、「ハリウッドの一大事件の真相究明、可能性を探る作品」として観るのが正解かと思います。
<一番心に残ったシーン>
リーブスが恋人(婚約者)とダンスをしているのを、家の外の車の中から目にして、社長夫人(ダイアン・レイン)が嫉妬と悲しみを味わう、その表情。
『14歳』@渋谷ユーロスペース [映画・DVD]
予告編を観た時から、想像はついていたけれど。
観終わって、どっと疲れた作品だった。がっかりはしなかったけれど、後味は、想像通り良くない。
かつて14歳だった二人の男女、現在26歳の深津と杉野。
深津は現在、中学校の教師をしており、まさに日々、14歳の生徒たちを相手にしている。
出てくる生徒たちは、それぞれ問題を抱えている。主に「関係性」において。
親との関係、教師との関係、男女の関係、女子同士の関係。
時として、観ているこちらが「痛いだろ!それは」と思うような言葉を、平気で口にする。
映画を観ていると「いまどきの14歳ってみんな問題ありか?」と思ってしまいそうだけど、そういうことではなく。「ごく普通の生徒」では、映画になりませんからね。
訴えかけてくるものはあるのだけれど、自分が14歳だった頃とあまりに違う世界なので、正直よくわからない部分も多い。「可愛いな」と思えたのは、ピアノ好きな男の子を好きになって、否定されて悲しむ女の子ぐらいで、あとの子たちは皆「気味が悪い」し。
先生をいじめたり、むやみに反抗的だったり、ケンカばかりしていたり、親にべったりだったり、嘘つきだったり。こういう子たちがいることは知っているけれど、関わりたくないな、正直。親も先生も大変だろうな。
出口が見えないような状況の中で、杉野が言う台詞はカッコイイけれど、私には言えそうにない。
相手が子供(14歳はまだ子供だと思う)でも、一人の人間としてきちんと向き合う、全力で向き合う。
たとえ、全然好きになれない相手であっても。その大変さを考えさせられた。
それはきっと、相手が大人でも同じこと。「人と真剣に向き合う」にはエネルギーがいる。犠牲もいる。
「一人の人間が真剣に相手にできる人数は限られている」という、カウンセラーの方の言葉を思い出した。私は・・・相方だけで精一杯だわ。
余計なひとこと。
香川照之さんが教師役で出ており、どこぞの雑誌だかチラシだかに「『ゆれる』を越える演技」とかかれていましたが。 「それはない!」と書かせていただきます。
<一番心に残ったシーン>
杉野が、自分がかつてピアノ教師に言われて傷ついたことを、言葉は違うけれど、現在の教え子(本業は別だが、頼まれてピアノの家庭教師をしている)に向かって言ってしまう。深津と焚き火にあたりながら、それを悔いて「(14歳の頃のことを)忘れちまうのかなあ」と涙するシーン。
<公式サイト>
http://www.pia.co.jp/pff/14sai/
『レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ』@池袋新文芸坐 [映画・DVD]
『茶の味』(DVD) [映画・DVD]
導入は「はあ?」って感じだったけど・・・先へ進むに従って、「やられた」感が強くなってきた。
味わい深い・・・しかも、面白い、びっくり箱みたいな作品。
主役が誰だかわからなかったし(家族、なのかな)、エピソードがぶつ切れで、最初は関連性がわからなくて混乱したけど、アヤノ叔父さん(浅野忠信)登場あたりから、どんどん引き込まれていった。
それぞれの問題を抱えていた家族が、最終的には皆解決(の糸口?)を見つけたようだし、観終えたら「あー、面白かったわー、もっかい観ようか」って気持ちになった。
景色がとても綺麗。昔ながらの、縁側のある家が素敵。「呪いの森」っていう森や、川や橋の情景も良いし、最後の方で皆が見上げる空も美しい。
<一番心に残ったシーン>
寺島進さん、登場シーン(どんな役か、どんな場面かあえて書きませんが、観た人ならわかるはず、このシーンはインパクトがありすぎて、忘れないでしょう、皆さん)
感動で残ったんじゃなくて、あっけにとられて爆笑!
<公式サイト>
http://www.grasshoppa.jp/tea/
『ゲロッパ!』(DVD) [映画・DVD]
- 出版社/メーカー: ハピネット・ピクチャーズ
- 発売日: 2004/04/09
- メディア: DVD
一度見ているのだけど、また見たくなって借りました。
井筒監督が作り出す「笑い」って、ベタなんだけどツボなんだなあ、私の。
ファンキーな娯楽作として、ちょっと辛かったり、しんどかったりする時に、元気をもらえる1本。
話は単純明快で捻りはなく、ちゃんとハッピーエンドになるし、出てくる人物は皆一癖あって面白い。
「役者揃ってんなあー」と思う。
主役の西田敏行、常盤貴子父娘もいいけど、岸辺一徳、山本太郎もいいしー。
藤山直美、根岸希衣、ラサール石井、増岡徹、寺島しのぶ、らも良い味出してます。
ただ、万人向けかというと、たぶん、違うから、「お薦め!」とは言いにくい。
この「笑い」には好き嫌いがあるでしょうし、感動作じゃあないから。
全体的に大袈裟な演技になってるしね。(たぶん、そういう方針なんでしょう)
映画を見た後には、「ちゃんとした(笑)」ジェームス・ブラウンを聴きたくなります。
★★★★★★☆☆☆☆ 5
<一番心に残ったシーン>
羽原組長(西田敏行)のステージシーンだなあ、やっぱり。
この撮影で腰を痛めたんですよね、確か。
<シネマトピックスの作品紹介ページ>http://www.cinematopics.com/cinema/works/output2.php?oid=3740
『魚と寝る女』@渋谷ユーロスペース [映画・DVD]
『うつせみ』に続けて、ユーロスペースのギドク・マンダラで鑑賞。
パッケージは幻想的でエロティックに見えるが、結構グロテスクだった。
暴力、セックス、独占的な愛情表現、等々、ギドク監督が熱心に取り組んでいるテーマが、この作品にも色濃く見られる。
そして、ヒロインである女は言葉を話さず、全体的にも、セリフは少なめ。
舞台は霧がたちこめたような湖(池?)、そこで、船を操り、釣り人相手に商売をする孤独な女ヒジン。
美しいはずの女優さんだが、なんだか薄汚れて暗く、不幸をしょいこんでいるように見え、魅力が感じられない。
時折見せる、狂気をおびた表情がとても怖い。
ただ、怖いばかりじゃなくて、状況的には笑える場面もある。
たとえば、想いを寄せている男(ヒョンシク)が、湖に浮かぶ宿泊所(小屋)で売春婦とコトを行おうとすると。
トイレ穴、として使っている場所から、ヒジンが顔を出す。
怖いんだけど、「げ。トイレ穴だよそこ。」と思ってしまうので、ぞくぞくっとは来ない。
よく考えれば、水の中に「している」んだし、その水の中を泳いで来ているんだから、どこだって同じなんだけど。
自殺を図ったヒョンシクを、ヒジンが必死に助けたことで、二人の仲は急接近するが・・・色々なことが悪い方向へと進み、結局は悲劇に。
ヒョンシクは元々殺人犯として追われており、自殺するつもりで湖に来ていた。
けれど、そのことが悲劇につながった、というよりも、ヒジンの独占欲やプライドのなせるわざ、と思えた。
ヒョンシクに想いを寄せる売春婦を拉致し、結果的に殺してしまったり。
あてつけ自殺を図って、ヒョンシクが自殺未遂した時の飲み込んだ「釣り針の塊」をヴァギナに入れたり。
彼が可愛がっている小鳥の籠を、水に放り込んで死なせてしまったり。
ヒジンの行動は、「いっちゃってる」としか思えない。
話全体としては筋が通っているし、ギドク監督は、極端な人物描写によって、強く訴えたいことがあるのだと思うけれど。
私の中に残ったのは、嫌悪感とまではいかないが、苦々しい感覚だったのが残念。
主演女優ソ・ジュンさんの、身体を張った演技に拍手を送り、★1つオマケ。
★★★★★☆☆☆☆☆ 5
<一番心に残ったシーン>
謎が残るラストシーン。
ヒロインはなぜ全裸死体となって、沈みかけたボートの上に横たわっているのか。
自殺なのか、他殺なのか?
表情は「無」に近く見える。苦しそうでもなければ、嬉しそうでもない。
解説を読めばわかるのかも知れないけれど、謎のままにしておきたい気も。
<シネマトピックスの作品紹介ページ>
http://www.cinematopics.com/cinema/works/output2.php?oid=1856
『うつせみ』@渋谷ユーロスペース [映画・DVD]
- 出版社/メーカー: ハピネット・ピクチャーズ
- 発売日: 2006/08/25
- メディア: DVD
すでにDVD化されていますが。
渋谷ユーロスペースで、スーパーギドクマンダラ開催中なので、行ってきた。
多くの人が「不思議な感じ」と評するのがよくわかった。
私にとっても、不思議な雰囲気の作品だった。
話はよくわからないし、共感もできないのだが・・・言葉に頼らない、主人公テソクと、最終的には彼と恋におちる人妻ソナが共有する時間の流れが「なんだかいいなあ」と思えて。
学生時代、ゴダールの映画(『気狂いピエロ』だったと思う)を最初に観た時に感じた感覚に近い。
よくわかんないけど、作品の雰囲気そのものが、心の奥深くに、ひたひたと沁みてくる感覚。
キモチイイ。
キム・ギドク監督作品を観たのは2作目だけど、モチーフの使い方が上手だなと思った。
今回は、「写真」がその役割を果たしていたように思う。
テソクは、留守宅を探しては、住人が帰ってくるまで、そこで普通に生活するという日々を送っているのだけれど(家宅侵入罪ですが、金品やモノを盗むわけではなく、壊れている時計やラジオや体重計を直してあげたりもしている)暮らした家で、必ず写真を撮る。
住人たちの写真があれば、それと一緒に。
夫によって、「かごの鳥」のような生活を強いられている(らしい)ソナの家には、彼女の大きなポートレートが飾ってあり、彼女がそれを見つめているシーンもある。
彼らがともに時間を過ごす、留守宅の一つに写真家の家があり、そこにも彼女のポートレートが飾ってある。彼女はそれを切り張りして、分解してしまう、等々。
それから、「存在の不確かさ」が重要なキーになっていると思うのだけど、それは前に観てよくわからなかった『絶対の愛』にも通じているなと思った。
ちょっとした手違い(誤解?まあ、家宅侵入罪ではありますが)で投獄された主人公は、牢獄の中で、「自分の存在を見えなくする」とでもいうような技術?を身につける。
釈放後、彼はソナとともに巡った家々を訪ねるのだが、住人たちは皆「気配」は感じるものの、姿を見ることができない。
そして、彼はとうとうソナの家に・・・彼女にだけは、彼の姿が見える。
ギドク監督が何を伝えたかったのか、を、あれこれ想像してみるのも悪くないけれど、それよりも、「よーわからん」と言いながら、ただ、この作品の世界にたゆたっていたいな、と感じた。
<一番心に残ったシーン>
二人が一緒に家々の扉にちらしを貼り付けていくシーン。
何度か繰り返される。
立派な家並みの街だったり、ぼろぼろの団地みたいなところだったり、瀟洒なマンションだったりと、場所は変化するが、その単純な動きの繰り返しが良い。
こういう単純な、けれども一緒に行動することで、言葉はかわさなくても「情」が生まれ育っていくんじゃないかなあと思えて。
(夜、ちらしが残っている家が留守宅ってことで、彼らはその家でしばしの時を過ごす、最初は主人公が一人でそれをやっていて、人妻を連れ出してからは、二人でその作業をするわけ)
<シネマトピックスの作品紹介ページ>http://www.cinematopics.com/cinema/works/output2.php?oid=5341
『いつか読書する日』@渋谷シネマアンジェリカ [映画・DVD]
オープニングは、主人公の美奈子が中学時代に書いた作文。「私は大人になってもこの街で暮らす」という内容の。その通りに、美奈子は50歳になった今でも、坂の多い、生まれ育った街で、一人で暮らしている。
美奈子には、高校時代につきあっていた槐太という彼がいた。
<一番心に残ったシーン>
槐太の妻(仁科亜希子)が、死を前にして、美奈子を自宅に呼ぶため、牛乳配達のボックスにメモを入れるために、点滴をつけたまま歩いていくシーン。実際に可能なのかはともかく、鬼気迫るものがあった。
<公式サイト>
http://www.eiga-dokusho.com/